12月が近づくと、街はクリスマスや年末年始の準備で、なんだかそわそわと華やいだ雰囲気になりますね。でも、それと同時に「あ、そろそろお歳暮の準備をしなきゃ…」と、ちょっぴり頭を悩ませている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
こんにちは、「こよみ暮らし」の、こよみです。慌ただしい毎日の中で生まれる暮らしの小さな疑問を、皆さんと一緒に考えていきたいと思っています。
何を隠そう、社会人になりたての頃の私もそうでした。「お歳暮って、そもそもどういう意味があるの？」「いつまでに贈れば失礼にならないの？」…考えれば考えるほど、年末の忙しい時期にまた一つ、難しいタスクが増えたような気持ちになったことを覚えています。
しかし、お歳暮の背景にある意味や歴史を知ると、単なる「年末の義務」ではなく、日本の美しい心遣いの文化なのだと気づかされます。
この記事では、そんなお歳暮の「そもそも」の部分である、本来の意味や由来、そして最も大切な時期について、深く掘り下げて分かりやすく解説していきます。この記事を読み終える頃には、お歳暮の基本がしっかりと身につき、「今年は誰に感謝を伝えようかな」と、前向きな気持ちで準備を始められるはずですよ。
お歳暮の意味や由来は？感謝を伝える日本の美しい習慣
まず結論から言うと、現代のお歳暮とは**「一年の締めくくりに、お世話になった方へ感謝の気持ちを伝えるために贈る品物」**のことです。単なるプレゼント交換ではなく、相手を敬い、これからも良い関係を願う、日本の美しいコミュニケーション文化の一つなんですね。
しかし、そのルーツを辿ると、現代とは少し違う、より神聖で生活に根差した意味合いが見えてきます。
ルーツは神様へのお供え物「御霊祭り」
お歳暮の起源は、古く日本で行われていた**「御霊祭り（みたままつり）」**という風習にあると言われています。これは、お正月にご先祖様の霊であり、その年の豊穣をもたらす「年神様（としがみさま）」をお迎えし、お祀りするための大切な行事でした。
その際、嫁いだ娘が実家へ、あるいは分家が本家へと、お祭りに必要なお供え物を持参する習慣があったのです。当時のお供え物は、新年を迎えるための保存食が中心でした。特に塩鮭、数の子、スルメといった日持ちのする海の幸や、お酒、お餅などが一般的でした。これらは神様へのお供え物であると同時に、年末年始を家族で過ごすための貴重な食料でもあったのです。
この**「年の暮れに、親元へお供え物を届ける」**という行為が、お歳暮の原型になったと考えられています。
江戸時代の商習慣が「感謝の贈り物」へと変化させた
時代は下り、江戸時代になると、お歳暮の習慣は商人たちの間でも広まっていきます。
当時の商売は「掛け売り」、つまりツケ払いが一般的でした。そして、その支払いはお盆と年末の年2回にまとめて行われていたのです。商人は年末になると、得意先を回って半年分の代金を回収する**「歳暮回り（せいぼまわり）」**を行いました。
その際、ただ代金を回収するだけでなく、「今年一年お世話になりました。来年もどうぞご贔屓に」という感謝と挨拶の気持ちを込めて、贈り物を持参したのです。この商習慣が、神様へのお供え物という元々の風習と融合し、次第に「お世話になった方へ感謝を伝える贈り物」という現代の形に近づいていったと言われています。
もともと「歳暮」という言葉自体は、「年の暮れ」を意味する季語でした。しかし、この年末の挨拶回りと贈り物の習慣が定着するにつれて、贈り物そのものを「お歳暮」と呼ぶようになったのです。
【こよみの豆知識】落語で見る、江戸の大晦日「掛け取り」
江戸の年末の風物詩であった「歳暮回り」の様子は、古典落語の演目**『掛け取り』**（上方では『掛取万歳』）にも生き生きと描かれています。
この噺は、大晦日、借金で首が回らない男の家に、次から次へとツケの回収（掛け取り）がやってくるという滑稽話です。男は、やって来た相手の趣味や性格に合わせて、狂歌を詠んだり、喧嘩を吹っかけたり、知ったかぶりをしたりして、何とか支払いを逃れようとします。
大家さんには狂歌で対抗し、「貧乏をすれど我が家に風情あり 質の流れに借金の山」なんて一句。これに感じ入った大家さんは「貸しはやる 借りは取られる 世の中に何とて大家つれなかるらん」と返し、支払いを待ってくれるのです。
この落語からは、年末の支払いに追われる庶民の悲喜こもごもと、人と人との駆け引きの温かさが伝わってきます。お歳暮の背景にある、こうした江戸の商習慣や人間模様に思いを馳せてみるのも面白いですね。
お歳暮とお中元、何が違うの？
よく似た習慣に「お中元」がありますよね。この二つの違いを簡単に整理してみましょう。
- お中元（おちゅうげん）
- 時期： 7月上旬～8月中旬頃
- 意味： 半年間（上半期）の感謝を伝え、相手の健康を願う。夏の暑い時期のご挨拶。
- お歳暮（おせいぼ）
- 時期： 12月上旬～12月20日頃
- 意味： 一年間の感謝を伝える、年末のご挨拶。
お中元は「上半期のありがとう」、お歳暮は「一年間のありがとう」と考えると分かりやすいですね。そのため、一年の総まとめであるお歳暮の方が、より重要視される傾向にあります。もしどちらか一方だけを贈る場合は、お歳暮を選ぶのが一般的です。
最も大切な「時期」はいつからいつまで？
お歳暮を贈る上で最も気になるのが「いつ贈るか」ですよね。マナーとして一番大切なポイントです。
結論は、一般的に12月上旬から12月20日頃までに相手に届くように手配するのがベストです。
しかし、なぜこの時期なのでしょうか？そして、最近少しずつ早まっている背景には何があるのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
昔は12月13日からだった「正月事始め」
もともと、お歳暮を贈り始めるのは12月13日からとされていました。この日は**「正月事始め（しょうがつことはじめ）」**と呼ばれ、その名の通り、新年を迎えるための準備を始める日だったのです。
具体的には、一年の汚れを払い清める「煤払い（すすはらい）」を行い、門松にする松を山へ採りに行く「松迎え」をするなど、年神様をお迎えするための支度を開始する日でした。江戸城でこの日に煤払いが行われていたことから、庶民にも広まった習慣です。
そして、この12月13日という日付は、陰陽道で**「鬼宿日（きしゅくにち）」**という万事において大吉とされる日にあたり、物事を始めるのに最適だと考えられていたことも理由の一つです。
お歳暮が、単なる年末の挨拶ではなく、新年を見据えた日本の伝統的な準備の一部であることが分かりますね。
近年、早期化するお歳暮商戦とその理由
「でも最近、11月くらいからデパートでお歳暮コーナーを見かけるけど？」と感じる方も多いでしょう。その通り、現代ではお歳暮を贈る時期が年々早まる傾向にあります。
その背景には、以下のような理由が考えられます。
- 年末の多忙化： 12月後半になると、仕事もプライベートも非常に慌ただしくなります。贈り手も受け取り手も、少しでも余裕のあるうちに済ませたいというニーズが高まっています。
- 販売戦略： 百貨店やスーパーなどが、年末商戦の顧客を早期に確保するため、11月からキャンペーンや早期割引を行うようになりました。
- 配送の集中を避けるため： 年末は宅配業者が最も混み合う時期です。希望日に確実に届けるため、早めに手配する人が増えています。
こうした理由から、現在では12月上旬に贈ることが一般的になっています。
関東と関西で少し違う？地域差について
実は、お歳暮を贈り始める時期には少しだけ地域差があります。
- 関東地方： 11月末頃から準備を始め、12月上旬に贈る方が多い傾向にあります。
- 関西地方： 昔ながらの習慣を大切にし、12月13日の「正月事始め」を過ぎてから贈る方が多い傾向にあります。
もし相手の住んでいる地域が分かれば少し配慮すると丁寧ですが、全国的に見れば「12月上旬～20日」が共通認識となっていますので、あまり神経質になる必要はありませんよ。大切なのは、年末で相手が忙しくなる前の、25日頃までには届くように手配することです。
もし、贈るのが遅れてしまったら？
忙しくてうっかり時期を逃してしまった！そんな時も大丈夫です。ちゃんとマナーに沿った方法があります。
基本的には、時期に合わせてのし紙の表書きを「御歳暮」から「御年賀」、そして「寒中御見舞」へと変えていくことで、失礼なく気持ちを伝えることができます。
それぞれの詳しい期間やマナー、文例については、こちらの記事で徹底的に解説していますので、ぜひ参考にしてくださいね。
→【お歳暮が遅れたら】もう間に合わない？御年賀・寒中見舞いのマナーと時期を徹底解説！
まとめ：感謝の心を伝える、日本の美しい習慣
今回は、お歳暮の基本的な意味や由来、そして贈る時期について詳しく解説しました。
- お歳暮は、神様へのお供え物が起源で、後に一年間の感謝を伝える贈り物へと変化した。
- 贈る時期は、12月上旬～20日頃がベスト。これは「正月事始め」の習慣に由来する。
- もし遅れても、時期に合わせたマナーで対応すれば大丈夫。
まずはこの基本を押さえておけば、自信を持って準備を進められますね。
忙しい毎日の中で、普段はなかなか口に出して言えない「ありがとう」の気持ち。お歳暮は、そんな大切な気持ちを形にして届けられる、年に一度の素敵な機会です。デジタルなコミュニケーションが主流の今だからこそ、品物を通して伝わる温もりは、きっと相手の心に深く響くはずです。
次の記事では、**「誰に、何を贈るか」**という、より具体的な相手選びや品物選び、そしてのしなどのマナーについて詳しく解説していきますので、そちらもぜひ参考にしてくださいね。
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